2年前の某ワークショップ。初めて外国人同僚と一対一で話すことになった。僕は準備した。挨拶、天気の話、入社何年目の質問まで、想定問答を頭の中でカードにして並べてた。まるで単語帳を自分の脳に敷き詰めたみたいに。
実際に聞かれたのは、まったく別の質問だった。
「Where are you from?」
でも僕の脳はまだ次のカードに進んでた。「What do you do?」用に用意してた答え、営業部で何年やってます、という自己紹介の冒頭を、そのまま口にした。
「I'm in the sales division. I've been here for six years.」
相手は数秒、黙って首を傾げた。聞いてないことが返ってきた。"from"って聞いたのに、"division"が返ってきた。なんで? 😳
顔が熱くなった。ここで次の一手を間違えてたら、会話はそこで終わってた。でも僕はこの手の場面には慣れてた。危機の時は笑えと。にっちゃり笑って手をひらひらさせて言った。「Sorry, I prepared the wrong answer.」
これ、ちゃんと英語の文になってた。相手は吹き出した。すごく笑った。そして「Where are you from, though」ともう一度聞いてきた。今度は聞こえた。大阪です、と答えた。そこから40分、立ち話で喋り続けた。
あの40分で口に出した英語の量は、その月に参考書で読んだ英語より多かった。

これ、不思議と必ず起きる。想定問答を練習すればするほど外す確率が上がる。なぜなら実会話の質問は、教科書みたいに並んでないから。天気、出身、仕事、最近どう、が順番に来るとは限らない。「きのうオーストラリアから帰ってきた」って話から始まって、「そこを運転して移動するの、アリだと思う?」ってのが最初に来ることもある。
しかも相手は、こっちの想定を一切共有してない。「英語で何か聞かれるな」と思って腹を決めてるのはこっちだけ。だから「準備の精度」でカバーするゲームは、はなから無理なんだ。
準備した質問は、ほぼ聞かれない。
たまたま的中した回の経験値は、記憶に残らない。ずれた答えを返した回だけが、しっかり残る。それは後で書くが、ぜんぶちゃんと練習になってる。

ここで大抵の人がやるのが、勉強に逃げること。「まだちゃんと話せないから、話しかけるのは時期尚早」。その「ちゃんと話せる」って、いつ来る?
来ない。言い切れる。会話の中でしか会話力は育たないから。分厚い参考書を10冊終えても、「質問を二回聞き直す勇気」は一ミリも育たない。聞き直す。赤面して言い直す。あの一連の動作は、実際に赤面した人にしか取れない練習だ。
英語を「ちゃんと話せるようになったら友達を作ろう」と待ってる人は、決して話せるようにならない。待ってる時間は、ただ英語を使わない時間だから。ホタルイカが打ち上げられる夜を待つようなものだ。新月、満潮、晴れ、穏やかな海、南風。全部が揃った日なんて、ほぼ来ない。
完璧待ちの時間は、練習にならない。

なんで言い間違いがいい練習なのか。理由はひとつ、明確にある。失敗は絶対に忘れない。
教科書で覚えた単語は一週間で消える。でも「"Where are you from?" に sales division って答えて相手をぎょっとさせた」場面は、僕は今でも鮮明に覚えてる。赤面した頬の熱さ、相手の眉毛、空気の温度。全部覚えてる。感情がくっついてるからだ。
記憶に残るということは、脳が「これは大事な場面だ」と認識してるということ。定着する。失敗が、記憶に残る話になる。 しかも相手にも同じ場面が残る。笑ってくれた人は、次の週も「で、大阪出身の営業マン」というネタで話しかけてくる。会話の入り口ができてる。
ここがいちばん言いたいこと。英語学習のゴールを、多くの人が間違えて認識してる。ゴールは「正しい英語を言うこと」じゃない。「会話が成立すること」だ。そして成立してるかどうかは、相手の表情で一発でわかる。
言い間違えたのに、相手が笑って、そのまま質問を続けてくれた。あの瞬間、会話は成立してた。文法は崩壊してたけど、人間関係は成立した。笑ってくれたなら、会話は成立してる。
逆に、完璧な文を言えたのに、誰も笑わず沈黙が落ちる会話もある。あっちの方がよっぽど失敗だ。
つまり英語で大事なのは、ミスを消すことじゃなくて、ミスが起きた後の動き。赤くなって、笑って、聞き直して、また喋る。この流れを身につけた人は、もう何も怖くない。どこで会話が始まっても負けない。
最後のパズルのピース。あの日伸びた英語は、実はあの40分の成果だけじゃない。会場を出た後、地下鉄の駅まで一緒に歩いた20分。そこで交わした雑談が、いちばんの教材だった。
英語力は、自分が英語と一緒にただ居た時間の積み重ねとほとんど一致する。単語帳に向かう時間より、気の置けない人とコーヒーを飲みながら喋る時間。そういう「誰も採点しない時間」をどれだけ持てるかが、全部を決める。
そしてこの時間は、大人になると勝手には発生しない。受験期は先生やクラスメートが用意してくれた。今は自分で作るしかない。
一緒に居た時間が、英語を伸ばす。
この「採点しない時間」を作るために生まれたのが SewaYou 。地図ベースのアプリで、近くにいる人、コーヒーで会いたい人、自分も言語を学んでいてこちらの間違いに笑ってつき合ってくれる人が見える。誰も採点しない。TOEIC の結果がどうとか、聞いてくる人もいない。ただ「もう一回教えて」って何回でも言える相手。😄
一度、あの失敗が怖くなくなると、英語は「正しく言うゲーム」から「一緒に笑う道具」に変わる。変わる瞬間に、練習量は倍になる。
完璧な初対面を狙うのはやめよう。隣で笑ってくれる人のところへ、行くだけだ。
SewaYou を開いて、地図の上で誰かと落ち合う。準備は何もいらない。間違えて、笑って、そこから始まる。 💬