英語学習でいちばん不思議な瞬間って、たぶんこれ。
3年くらい単語帳とテキストとNHKラジオ英会話を続けて、TOEICが600から720まで上がって、ちょっと自信ついてきたな、と思って、「そろそろ本物のコンテンツいける」って気合い入れて、海外YouTuberの雑談ライブを開く。アメリカ人が3人で、なんかその週にあったどうでもいい話をゲラゲラ笑いながら早口で被せ合ってる、あの動画。
40秒で、脳が完全に止まる。😶
1文に4単語くらいしか拾えない。笑い声のタイミングは聞こえるけど、何が面白いかは分からない。10秒戻す。もう一回戻す。タブを閉じる。3年間が嘘だったような気持ちになって、寝る。
あれは実力不足じゃなくて、本物の英語の始まり。

学習者向けの教材って、全部こっちのために設計されてる。NHKのアナウンサーは、ゆっくり、はっきり、一人ずつ話す。TOEICのリスニングは、雑音もなければ、被せもなければ、スラングもない。文法は、その課で習ったやつしか出てこない。設計上、勝てるようになってる。
ネイティブのコンテンツは、こっちのために作られてない。アメリカ人が、アメリカ人に向けて、共通の前提を100個くらい全部省略して話してる。3年前に流行ったミーム。地方訛り。途中で言い直す癖。一語に2つ意味があることを利用したダジャレ。「ここで割って入っていい」「ここはダメ」っていう社会的なルール。全部、説明なしで前提になってる。
「TOEICのリスニング満点」と「友達二人がラーメン屋でゲラゲラ喋ってるのに付いていける」のあいだの距離は、本人が思ってる10倍ある。実際に100倍くらい難しい。ほとんどの中級者がここで自分を責める。 教材時代に取れてた手応えが、急に消えるから。
そして焦って、また単語帳に戻る。なぜなら、単語帳は手応えがあるから。本物のリスニングには手応えがない。聞き取れない時間が長すぎて、自分が伸びてるかどうかが見えない。
ここでみんなが勘違いしてるのは、「英語力」を1本のメーターだと思ってること。実際は、リスニングだけでも最低4種類くらいある別々の筋肉。学校とTOEICで鍛えてるのは、いちばん簡単なやつ1個だけ。
海外Vloggerで脳が止まるとき、上の3つで死んでて、本人は1つ目だけが「英語力」だと思い込んでるから、「自分の英語力が低い」と結論してしまう。違う。1つ目はそれなりに伸びてる。残りの3つが、まだ0からスタートしてないだけ。

中級の壁を「やる気と教材」で抜けようとする人が、日本にいちばん多い。本能的にそうなる。教材で来たんだから、教材で抜けられるはず、と思う。
新しいアプリを入れる。Anki再開。シャドーイングの教材。瞬間英作文。発音矯正のYouTube。オンライン英会話を週3に増やす。月額1万円のサブスクを2つ。
このうちのいくつかは効く。けど、ほとんどは効かない。なぜなら、足りてない3つの筋肉は、単語量の問題じゃないから。「人間と回数こなす」筋肉。
もごもごの音声に耳が慣れるのは、自分が興味あることを、本物の人間がもごもごで話してるのを大量に浴びたとき。文化の隙間が埋まるのは、その文化の中で生きてる人が、それをカジュアルに参照してるそばに、何ヶ月もいたとき。「分かってない状態」に脳が耐えるのは、本物の会話の中で、半分しか分かってないまま、その場を立たずに座り続けたとき。
これを、夜11時に自分の部屋で、Ankiカードでは絶対鍛えられない。
そして、オンライン英会話でも、実は鍛えにくい。なぜなら、オンライン英会話の先生は、こっちが分かるように手加減してくれてるから。テンプレ通りの自己紹介、テンプレ通りの質問、テンプレ通りの相槌。本物のもごもごじゃない。台本のある会話は、台本のある教材の延長。
中級の壁の正体って、実は努力の量じゃなくて、孤独の量。
中級の壁を割と早く抜けた日本人を10人くらい思い浮かべると、ほとんど全員、共通点が1つある。
留学した、じゃない。シャドーイング1000時間やった、でもない。発音矯正のコーチに高額払った、でもない。
勉強じゃない理由で、定期的に英語で会う相手がいた。
たまたま同じバンドが好きで、ライブの感想をDMで送り合ってた外国人。週末ボルダリングジムで、毎週ばったり会って、ルートの話してた人。職場の近くで、月2でカフェに行ってたインバウンド観光業の同僚。インスタで知り合って、来日のたびに半日くらい一緒に観光してたフォロワー。
関係の中身は、ほぼなんでもいい。重要なのは、「お金を払ってない人間が、本物の英語を、本物の使い方で、こっちの目の前で何十時間も使ってた」こと。これだけで、半年後にネイティブのポッドキャストが、急に「ザザーッ」じゃなくなる。
友達一人は、千時間のリスニング教材に化ける。 🎧
しかも、これは続けるのに気合いがいらない。週1で会う友達に「今週も行くぞ」と気合い入れる人はいない。普通に予定だから、行く。背景で英語学習が、無料で、勝手に進んでる。普通の生活をしてるあいだに。

中級でずっと止まってる人が、来週から動くなら、たぶんこの3つだけでいい。
これだけ。地味で、TOEIC的な達成感はない。けど、「教材は分かるけど、人間が来ると死ぬ」状態から、「気づいたら相手の言ってることに笑ってた」状態まで、本当に動かしてくれるのは、ほぼこれしかない。
正直、上の3つで、いちばん難しいのは2番目。日本に住んでて、英会話スクールでも語学交換アプリのチャット相手でもなく、「カジュアルに、定期的に、対面で会える外国人の友達」を作るのは、本気で難しい。たいていの語学交換アプリは、結局ずっと文字のやりとりで終わる。必要なのは、土曜日にコーヒー飲める人。
SewaYou は、近所の語学学習者と友達作り目的の外国人を、地図ベースで見つけられるアプリ。誰がどこにいて、何を話せて、何が好きかが見える。メッセージして、会って、何ヶ月か続けるだけで、リスニングが裏側で勝手に直っていく、あの種類の関係を作れる。Ankiも、シャドーイングも、月1万円のサブスクもいらない。コーヒー一杯と、友達一人だけ。
中級の壁は、本物。けど、それは壁じゃなくてドア。そしてドアは、外側からしか開かない。
